真宗佛光寺派 本山佛光寺

2017年の時事法話

難度海

2017年11月

 お茶所同行が亡くなられた。娘さんと二人暮らしの七九歳。奥様の死をご縁にして約十年、毎日のように聴聞してくださった。台風による大雨暴風警報が発令中、布教使の先生を待たせてはいけないと、びしょ濡れで歩いて来られたという逸話もある。
 八月、胃癌が発覚。末期だった。お見舞いに寄せてもらうと、すっかり痩せた体を起こし、「まさか自分が癌になるとは思いませんでしたから、煩悩一杯の私でしたね。今は静かに、最期の時を待たせてもろてます。」そうおっしゃった。終始、穏やかな笑みをたたえながら、阿弥陀様のおはたらきを讃えられ、お念仏に出遇った喜びを語られた。一度だけ、お茶所の皆さんに会いたいなあと、泣き笑いの涙をこぼされた。私は終始、涙が止まらなかった。
 ついぞ、娘さんと一緒に聴聞なさったとは聞かなかった。ところがお通夜。列席した私は密かに驚いた。娘さんの口がかすかに動いている。見間違いかと目を見開いたが、正信偈のリズムに合わせて動いている。目に見えないご本願が、無量の寿が、死を通して生き生きとはたらく場に出遇い、また一声、口から南無阿弥陀仏が出てくださった。

2017年7月

 不思議なご縁で、初孫に恵まれた。抱いてあやしたり、あぐらに組んだ足の中に入れたりできると思うと、自坊に帰るのが楽しみで仕方ない。改めて驚いたけれど、赤ん坊って生きるのに必死だ。必死に声を挙げ懸命に全身を動かし、疲れ果ててぱったりと眠る。自分ひとりでは「死が必定」だからこそ、生きるには周りの「お育ての力」に依るしかない。赤ん坊は一〇〇%「お育ての船」に乗っている。数ヶ月が経つ頃には、母親の船に乗っていることが分かると、安心して笑うようになる。
 私はいつ、その船を降りたのだろう。いや、今も「お育ての力」を受け続けているのに、いつ降りたつもりになったのだろう。そして再び、「難思の弘誓は難度海を度する大船」と、乗船の勧めに出遇った。自分の傲慢さに目覚めさせてもらい、背負ってきたものを棄てて、「お育ての船」に乗って安心して笑えたとすると、それもまた自分の力ではない。ひとえに宗祖や先人や初孫、そんな善知識の皆さまのおかげだと思う。諸仏を念じながら船に乗り、笑って暮らしたい。

2017年3月

 来月、四月二日は親鸞聖人の八四四回目のお誕生日である。聖人のご生涯は仏道探求の末、無碍の一道の念仏生活であった。聖人滅後、八百年に亘り真宗が繁盛している事は、当然ながら聖人はご存知ない。しかし、「化身土巻」後序に「聖道の諸教は行証久しく廃れ、浄土の真宗は証道いま盛んなり」と示されている。真宗の興隆に疑う余地がない事を、信じて止まなかったのである。聖人は師匠法然上人を「真宗の興隆の大祖」と仰がれたのもそれを物語っている。また、お念仏に出遇われた喜びを「弥陀五劫思惟の願をよくよく案ずれば、ひとへに親鸞一人がためなりけり。されば、そくばくの業をもちける身にてありけるを、たすけんとおぼしめしたちける本願のかたじけなさよ」と頂かれた有名な『歎異抄』後序の一節である。そして『教行信証』総序の文に、「遇、行信を獲ば、遠く宿縁を慶べ」とも示された。今、その流れを汲む私たちは、聖人のご功績の恩恵の上に立っている。毎年勤修される春法要、御正忌報恩講、月次法要、日次法要も、仏恩報謝である。釈尊、七高祖、親鸞聖人へと相続されたお念仏は仏恩報謝以外の何者でもない。六年後、宗祖親鸞聖人御誕生八五〇年、立教開宗八〇〇年法要は大遠忌法要と双璧である。

2017年1月

 元旦の日の出は、特別に見える。太陽にしてみれば、太古のいにしえから何等変化はないが、われわれには、一年で一番輝いて見える。新年に抱く期待がそうさせるのだろうか。地平線、水平線からの御来光に何故か万歳をする。命を育む恩恵への感動感謝の表現か。日の出があれば日没もある。仏教徒は日没の方角を西方浄土に喩え親しんで来た。善導大師は二十四時間を日没、初夜、中夜、後夜、晨朝、日中、の六時に定め、読誦、礼拝、讃嘆する宗教生活を確立した。真宗寺院の法要差定はそれが基本になった。阿弥陀さまの光明は『正信偈』に「普放無量無辺光」から「超日月光照塵刹」まで十二光の功徳が著されている。親鸞聖人は『弥陀如来名号徳』に「無量の光十方を照らすこと、きはほとりなきによりて、無辺光と申すなり」と。「弥陀の光明は、日月の光にすぐれたまふゆえに(中略)「超日月光」と申すなり」。と示された。阿弥陀さまの用は光明と名号でわれらを救い賜う。光明と名号は別体があるわけでは無く別々の表現である。光明は摂取不捨の智慧の徳を顕す。智慧は破闇(煩悩を破る)、摂取不捨(摂め取って捨てない)。徳は調熟(われわれを聴聞に導くおそだて)である。今年も光明と名号に抱かれての一年である。

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