真宗佛光寺派 本山佛光寺

2023年11月のともしび

常照我

「遠山紋様(袈裟裂)」「遠山紋様(袈裟裂)」

 糞掃衣に見られる意匠を遠くの山並みに見立てた裂。正倉院御物や比叡山にも現存し、主に髙位の僧が着用した。本山には、微妙定院様がご自分で刺して作られたと言われる遠山七條があり、惠照前御門主も着用された。


 「おのおの十余か国のさかいをこえて、身命をかえりみずしてたずねきたらしめたまう」で始まる、歎異抄の第二条。
 往生の道を親鸞聖人に尋ねずにはおれないと、はるばる徒歩で関東から京都へ参られた門弟方。この一節を読むたび、その真摯さと切迫感に圧倒されます。
 今なら当日思い立っても行けますし、寺院建築や仏像鑑賞といった側面に興味があってのお参りの方も多々あるでしょう。
 でも、境内では気軽におしゃべりをしていても、本堂に入れば自然と神妙な顔つきで手を合わせていたりします。そしてそのお参りが、教えをいただくご縁となることもありましょう。
 たまたまと思った出会いを教えとしていただくようになり、気づけば尋ね聞かずにはおれなくなる。仏縁の不思議です。

  (機関紙「ともしび」令和5年11月号 「常照我」より)

 

親鸞聖人のことば

よろこぶべきこころを
おさえてよろこばせざるは、
煩悩の所為なり。

『歎異抄』より(「佛光寺聖典」七九六頁)


【意訳】

 当然よろこぶべきこころを、おさえてよろこばないのは、わたしの煩悩がなせるところなのです。


 月命日のお参りにおじゃますると、おじいちゃんの太い声がお迎えしてくれました。


「いやあ参った」
 お内仏でのお参りが終わると、ペットボトルのお茶をコップに注ぎながら、開口一番「いやあ参った」とおっしゃいます。
 「ばあちゃんが入院して大騒ぎだ。何がどこにあるかさっぱりわからん」と嘆いておられます。おつれあいが転んで骨折されたとのこと。
 「洗濯機の使い方がわからんし、炊飯器でご飯も炊けない。できるのは電子レンジのチンだけだ」。どうやらしばらく、スーパーやコンビニのお弁当でしのいでおられるようです。
 「ばあちゃんがいて当たり前と思っていたけど、当たり前の有り難みがようわかった。これからもっと大事にしないと」としんみりとしておられます。

「あーら不思議」
 次の月命日。今度はおじいちゃんとおばあちゃんお揃いです。椅子に座ったおばあちゃんが、お茶を入れて下さいます。
 「まだリハビリは続きますが、帰れて良かった。じいちゃんが代わりに何でもやってくれます」とおっしゃるおつれあい。「ばあちゃん、骨がしっかりしてるとかで、ちゃんと元どおりになるらしいんだ」とおじいちゃんはにこにこ顔です。
 また次の月命日。玄関に入るとお二人の言い合う声が……。わたしを見てバツが悪そうに一緒にお内仏の前に座ります。
 お勤めの後「ご住職、坊主じゃないけど三日坊主」とおじいちゃんは恥ずかしそうに頭をかきます。おばあちゃんも「あーら不思議、あっと言う間に元どおり。煩悩具足ですねえ」と苦笑いです。

  (機関紙「ともしび」令和5年11月号より)

 

仏教あれこれ

「腕相撲」の巻

 「腕相撲せーへんか?」。高校一年生になる息子に言ってみたところ、「やろかー」と二つ返事。
 その日がたまたま父の日ということもあったので、「父の日杯腕相撲一本勝負」が開催されることとなりました。
 なぜ腕相撲かというと、私の中に「体力的・筋力的に、いつまで息子に勝てるのか?」というのがあったからでした。
 高校の体操部に入った息子。未経験でしたが、ただ興味があるというだけで入部したようです。
 それでも、一般的に男子が競技する、ゆか・あん馬・つり輪・跳馬・平行棒・鉄棒の六種目すべてを練習しているとのこと。
 入部して数カ月ではありますが、毎日トレーニングする中で筋肉も付いてきたように見えていました。
 そして「腕相撲一本勝負」は、妻の「レディー、ゴー」の合図ではじまったのです。最初の三十秒は互角の戦いでしたが、ラスト二十秒で何とか勝つことができました。そして双方クタクタに。
 始める前の「いつまで勝てるのか」という私の思いは、終了した瞬間「勝てるのは、これが最後かな」に変わりました。
 今後、体力も筋力も上昇していく息子と、下降していく私とをグラフにしたときの線と線とが交わる直前を垣間見た気がしました。
 息子の成長を喜ぶ半面、自身の老化を認めたくない私。
 「老は誰しも避けることができない」と普段から言っているにもかかわらず、それが口先だけであったということが明らかになった瞬間でもありました。

  (機関紙「ともしび」令和5年11月号より)

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