真宗佛光寺派 本山佛光寺

2023年3月のともしび

常照我

「鳳凰文様(袈裟裂)」「鳳凰文様(袈裟裂)」

 有職の模様の一つで、天皇は桐竹鳳凰紋の装束を多く使われた。袈裟にも多く用いられ、鳳が雄で凰が雌で、政が正しく行われ、泰平の世に現われる瑞鳥といわれる。(裂の提供 川勝法衣店)


 三月、進学・就職・転勤などで転居の多い季節。心機一転の新生活にワクワクする人も、見知らぬ土地に不安を覚える人も、それぞれにあることでしょう。
 大学進学で上京し一人暮らしを始めた時。私は、環境の変化に弱い自分が東京でやっていけるのか、不安でいっぱいでした。
 その頃は「変化を楽しめるようにならねば」と力み、新生活を楽しむ周囲と比べては、自分は劣っていると焦っていました。
 その後社会人になり、勤務先の倒産で失業を経験。それこそ変化を楽しむどころではなく、行き詰まりのどん底で、比べることのない仏さまの世界に出遇い、優劣にとらわれていた自分の姿に気づかされました。
 不安いっぱいの自分をそのままに受け止めていける世界が、そこにあったのでした。

  (機関紙「ともしび」令和5年3月号 「常照我」より)

 

親鸞聖人のことば

光明月日に勝過して
超日月光となづけたり
釈迦嘆じてなおつきず
無等等を帰命せよ

『浄土和讃』より(「佛光寺聖典」五八二頁)


【意訳】

 阿弥陀如来は太陽や月よりも素晴らしい光の仏さまです。お釈迦さまがどれほどおほめになっても讃え尽くすことはできません。くらべるもののないほど素晴らしい阿弥陀如来のお救いにおまかせしましょう。


 霜の降りた早朝、吐く息も白く散歩に出かけ、橋の手前で少し休んでいたときでした。


ちいさな“もの”
 すぐ先の、道のほぼ真ん中に何かあるのに気づきました。
 近づくと、それは一匹のバッタでした。
 つかまえようと、手を伸ばしても逃げません。それどころか、手が触れると、横倒しにそのままコトンと倒れてしまいました。小枝や小石の“もの”と同じで、微動だにしません。
 「とっくに死んでいるな」
 でも、どうして道の真ん中にあったのか、不思議でした。
 帰り際、その橋のたもとに戻ってきて、びっくりしました。なんと、あの横倒しにしたバッタが起き上がっていたのです。
 死んではおらず、寒さで固まった体を温めようと、草むらから道に出て、太陽の日ざしを一身に浴びていたのでした。

“いのち”を照らす
 ほどなく、バッタは草むらへと消えていきましたが、その懸命な“いのち”のすがたに思わずお念仏が出ました。
 「なまんだぶ…」
 でも同時に、そのお念仏は、“もの”と感じたときには出ずに“いのち”だと分かったとたんに出たもので、何か私の心の身勝手な有り様を如実にあらわしているようにも思えました。
 その後、私は家に着くまでのあいだ、バッタに成り代わった我が身を想像していました。
 私の“いのち”を照らしてくださるのは、超日月光仏と称讃される阿弥陀さまです。大悲の遮られることのないみ光が常に照護してくださっています。
 あのバッタのように、生きる力が我が身に湧いて、再びお念仏が口をついて出ました。

  (機関紙「ともしび」令和5年3月号より)

 

仏教あれこれ

「はからい」の巻

 10年近く布教に伺っているお寺さまに、お参りした時のことです。
 到着してしばらくすると、控室の襖がそっと開き、小学2年生の男の子が、オセロを小脇に抱えて入ってきました。こんなゲームができるほど大きくなったのかと嬉しくなり、彼を喜ばせたくて、うまく負けようと思いました。しかし、1つ差で勝つという失態をおかします。
 その翌日、今度はトランプを持って控室に現れた彼、ババ抜きをしようと言います。今度こそ負けようとしますが、またもや勝ってしまった私。
 その日の夕方、彼は将棋を持って現れました。将棋をしたことがないと言う私に教えてくれますが、途中で彼の父親が様子を見に来るほど、勝負がなかなかつきません。そこで、ここで一気に負けようと、トンチンカンな場所に指した私。すると、それがまさかの王手。実は勝ったことにも気づいていなかったのですが、お父さんに指摘されて判明。
 そもそも、オセロは昔から弱く、将棋に至っては初めて。そんな私がうまく負けようなんて、おこがましいにも程があったのです。子どもを勝たせて喜ばせたいと思っていましたが、後でご家族の方から、彼は一緒にゲームができたことを喜んでいたと知らされ、一瞬、安堵したものの恥ずかしい思いがしました。
 自分の思いや段取りは行き詰りますが、行き詰っているのは、そんな私のはからいだけだということを、改めて彼に知らされた思いがしました。

  (機関紙「ともしび」令和5年3月号より)

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