真宗佛光寺派 本山佛光寺

2015年12月のともしび

常照我

「あるがままに」 撮影 谷口 良三氏「あるがままに」 撮影 谷口 良三氏

 

 気温が低く、風の強い冬の日。冷たい霧などが樹木に衝突、凍結付着して、樹氷はできます。
 樹は、ただじっと堪えています。そこに立っていることを、ただあるがままに受け入れます。
 私は、いやなことを避け、置かれた境遇に文句を言い、苦しい現実を受け入れようとせずに、他人のせいにしてしまいます。
 病や、愛する人との別れなど、
現実は受け入れ難いものです。けれどいやだと言っても結局は受けていかなければなりません。
 自分の生きる場所に根を下ろしたなら、厳しく辛い現実にむしろ「ようこそ」と向かい合うことこそ、生きることの強さなのだと、木々は教えてくれます。
 やがて小さな氷は無数に凝集し、厳しい自然の姿はそのままが美しい景色となります。それは、力強い美しさです。

 

  (機関紙「ともしび」平成27年12月号 「常照我」より)

 

仏教あれこれ

「年甲斐もなく」の巻

 祖母が存命中のある夏のこと。私が着ていたピンク色のチェック柄のブラウスを見て、祖母が「まあ、良い色ね。私もそんな服を着たいわ」と羨ましそうに言いました。私は「いい年をして何言ってんの。こんな色はもう着れないでしょ」と返してしまったのですが…。
 今思うと、自分だって70代のおばあちゃんになっても、かわいい服を着て、かわいいおばあちゃんでいたい。自分を棚に上げて、悪いことを言ってしまったなあと思っています。
 また、別のある夏のこと。還暦を迎えた母が、暑い暑いとノースリーブの洋服を着て、二の腕を大胆に晒して外出。思わず「いい年をして、肩丸出しの服を着ちゃって…」と揶揄してしまったのですが、いや待て。そういう自分はどうなのよ?それこそ年甲斐もなく、リボンとセーラー襟の付いたTシャツなんか着ちゃってるじゃないの。女子高生だった時代なんて、十何年前よ。
 他人に対して「年甲斐もなく」と肩をすくめながら、実は自分こそ、年相応を受け入れられない。なんともお恥ずかしい話です。何歳になっても実年齢より若く見られたいという願望は、多くの女性が持っていると思いますが、私こそ、若さへの執着は人一倍。うーん、なんと煩悩の深いことか。
 生老病死は身の事実、若いのが善で老いが悪ではない、若さに執着せず、ありのままの老いを引き受けましょう、などと言葉では聞いても、それを真に自分のこととして受け入れるのは難しいものですね。

 

 (機関紙「ともしび」平成27年12月号より)

 

和讃に聞く

浄土和讃

一切の功徳にすぐれたる
南無阿弥陀仏をとなうれば
三世の重障みなながら
かならず転じて軽微なり

浄土和讃 (『佛光寺聖典』六〇〇頁 一〇六首)


【意訳】

 南無阿弥陀仏の教えを聞きひらき、念仏申す身となる。
 それにより過去から現在、現在から未来にわたって私を縛る重い煩悩は、そのまま意味あることに転ぜられ、いただき生きる道がひらかれるのです。

 「真宗では病気が治るとか、あまり聞いたことがありませんが、ご利益ってないんですか?」
 先日、ご法事を勤められたお宅で、親戚の方から出た質問です。お話を聞くと、お寺で勤まるご法座には必ず身を運ばれている方のようですが、ある時ご利益の話がまったくないことに気づかれたようです。
 もちろん真宗の教えにも、ご利益はあります。
 但し、拝めば病気が治るとか、お金が儲かるとかという我欲を満たすものではありません。

 健康は有り難い
 数ある病気の中でも「余命○年」と宣告されるものには厳しいものがあります。
 数年前のことになりますが、長年聴聞を重ねられてこられたご門徒のAさんがガンに冒され、私にこうおっしゃったことがありました。
 「余命一年って言われました。うれしいですね、明日の命もわからんのに、一年もあるって保証つきですよ」。
 冗談まじりに話すAさん、実に晴々とした表情に、私は返す言葉もありませんでした。

 病気も有り難い
  私たちは、健康に価値を見い出すことが出来ても、病気に価値を見出すことがありません。
 病気になりたくてなる人はいませんが、病んだことが縁となって健康だけでは見えなかったこと、気づかなかったこと、そこから学ばされること。
 南無阿弥陀仏の「はたらき」は、自我の価値観を超えて、どのような状況の中からでも生きる意味を見い出す智慧です。
 目先のごまかしを許さないこの上ないご利益は、私が思う前に仏さまの方から願われていた身に気づくことから始まります。


 (機関紙「ともしび」平成27年12月号より)

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