2026年3月のともしび

常照我

先日、福寿草の花を見つけた。
黄色い花びらは力強く張り、周りの落ち葉を跳ね返すように咲いていた。
昔とてもお世話になった人を、ふと思い出した。生活を共にした時間が走馬灯のように浮かんでくる。彼はこの花が好きで、この時期に亡くなった。
以前、小学一年生の女の子に「仏さまってどんな感じか教えて」とたずねられ、言葉が出なかったことがある。
いま、目の前に咲く黄色い花が、忘れていた亡き人と出会わせてくれている。わたしの心にも美しい花を咲かせてくれた。
ひとりで生きているつもりでも、実は様々なはたらきのおかげで生かされていることに、思わず手が合わさる。
あの時、女の子に「仏さまってこんな感じだよ」と、言えればよかったと思った。

高廊下(大師堂から
阿弥陀堂をみる) 
撮影 杲 恵順氏

親鸞聖人のことば

清風宝樹をふくときは
いつつの音声いだしつつ
宮商和して自然なり
清浄勲を礼すべし
 
『浄土和讃』より
(『佛光寺聖典』 五八七頁 )
 
【意訳】
 お浄土に清々しい風が吹くと、宝で出来た木々から五種の音色が奏でられます。
不揃いであるはずのそれらの音は自然に調和して聞こえ、音色とともに清らかな香りがあたりに立ち込めます。
音と香りとなってはたらく阿弥陀仏に帰依いたしましょう。

 私の住む地域に、江戸時代から続く聞法道場を自治会で護持されているところがあります。
縁あって、毎月の定例布教に寄せていただくようになり、かれこれ二十数年になります。
 
お荘厳とお勤め
 
こちらの道場の特徴は、お参りされる方々のご宗旨やお手次ぎのお寺がまちまちなことです。
浄土真宗の方がほとんどですが、それ以外のご宗旨の方も多数おられます。
 お内陣も特徴的です。真宗を基調としたお荘厳は、よく見ると本願寺派や大谷派、佛光寺派など、いろいろな仏具が入り混じって飾られています。
おそらくあえてお荘厳を統一されなかったのでしょう。
 また、お勤めする「正信偈」も、いろいろな宗派の節が混ざり合った、何とも言えない味わいがあります。
 
不揃いの調和
 
 自治会館でもあるこの道場は地域の憩いの場でもあります。訪れるたびにいつも誰かの笑い声が聞こえてきます。
気兼ねなく集うことができ、ともに手を合わせ、ともに仏法を聞く場として大切に守られているのだと感じます。
 お浄土では清らかな風に揺られた宝の木々が、美しい音色を奏でるといわれます。その音色は、本来不協和音となるはずの
音が自然と調和しているそうです。宗派やお寺が違う者同士は、ともすれば衝突し合ってもおかしくありません。不揃いなお荘
厳やお勤めが見事に調和している姿は、さながらお浄土のようだと私には思えるのです。
 道場はお参りの皆様にとって特別な場所であることはもちろんですが、私にとっても、特別で尊い場所となっています。

仏教あれこれ

「百科辞典」の巻
 
 家には、亡き父が買った百科事典があります。
父以外はほとんど利用することのなかった、今では私たちにとって家具の一部のような代物です。
 今は、知りたいことがあれば、何でもウェブ上で簡単にわかります。すぐに検索でき、どこにいても情報を得ることができ、使い勝手がいいです。
私も、調べものはインターネットを活用し、事典や辞書を手にすることは、もうほとんどありません。
 ましてかなり古くなった百科事典です。無用の長物が大きな顔をして、今も本棚を占有しています。
ネットで調べると、もう古書としての価値もないとのことで、廃棄しかありません。思えば、父が亡くなって十五年も経っています。いい加減、もう処分せねばと決心しました。
 さて、荷造りをしようと本棚から取りだし、ぱらぱらとページを繰っていたときのことです。
何冊目かに、偶然、付箋が貼られているのを見つけました。父が付けたのでしょう。
どうしてそこに印を付けたのか、その箇所を読んでも見当が付きません。
 でもそうなると、他にも付箋が付いているかもと気になりました。
こうして、すべての巻を調べ終わったとき、いつのまにかずいぶん時間が経っていました。
 付けられていた付箋の意味や関連性は分からなかったのですが、でも新鮮な感じをおぼえました。父親に少し触れられたような気がしたのです。
まるで亡き父の存在を少し読みとれたような思いでした。
 もう少し、捨てないで置いておこうか、と思い直しました。

おときレシピ Vol.101「春菊の胡麻和え

 温かい鍋料理が頼もしいこの時期、春菊を口にする機会も多いのではないでしょうか。独特の香りが特徴ですが、
春菊のような香りの強い野菜を美味しいと感じるようになったとき、私も大人になったな、などと思ったことを覚えています。
 さて、その春菊。鍋やおひたしなど和食の定番食材だと思いきや、実は地中海が原産地だということをご存知でしたか?
しかも、現地では葉や茎を食べるより、花が観賞用として愛でられていたというのですから驚きです。調べてみたら、白と黄色の実に愛らしい小菊でした。
 今回はそんな春菊を、これまた和食の定番の胡麻和えにしました。馴染みのある味わいの向こうに、遠く地中海の街に揺れる春菊の花を思い浮かべると、なんとも不思議な気持ちになるものです。

春菊…2把
胡麻…大さじ1
【 A 】
砂糖…小さじ1
醤油…大さじ1/2
胡麻を軽く炒り、すり鉢で擦っておく。
沸騰した湯で春菊を1分ほど茹で、ザルに取ってから水気を取り、食べやすい長さに切る。
1のすり鉢に2とAを加え、よく和える。

(ワンポイント)
春菊が温かいうちに混ぜると味がしっかりと染み込んでいきます。

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【監修】青江覚峰
 一九七七年、東京浅草生。浄土真宗東本願寺派緑泉寺住職。
 カリフォルニア州立大学にてMBA取得。料理僧として料理、食育に取り組む。著書に『お寺ごはん』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。NHKをはじめテレビ、新聞などメディア出演も多数。