常照我
 罠にかかったツルを助けたおじいさん。そのツルが娘となり、布を織って恩返しする『ツルの恩返し』。正体を知られたツルは空へと飛び立ったのでした。
 この話には後日談をかたった小話があります。
 また罠にかかった鳥を助けたおじいさん。娘を心待ちにしていると、案の定やって来て布を織るため隣の部屋へ。しかし翌日、その部屋が静まり返っているのを不思議に思い、覗いてみると、家財道具が一切合切なくなっていたのでした。
 「だまされた。詐欺だ」。実は、おじいさんが助けた鳥というのはサギだったのでした……。
 最初は親切心からだったのが、いつしか恩返しを期待してしまう。後日談はそんなおじいさんの、いや私の姿を教えてくれているのでしょうか。
  (機関紙「ともしび」令和2年12月号 「常照我」より)

親鸞聖人のことば
大悲の願船に乗じて、
光明の広海に浮かびぬれば、
至徳の風静かに、衆禍の波転ず。
『顕浄土真実教行証文類』より(「佛光寺聖典」二一六頁)
【意訳】
 阿弥陀さまの大悲の船に乗り、光のはたらきに満ちた広い海に浮かぶならば、阿弥陀さまのまことの心より起こされる風が、すべての禍の波を静かに転ずるのです。
 今年の三月初め、私は高速道路を使い、車で京都へと急いでいました。
うどんが気管に
 昼食をとっていなかった私は、途中サービスエリアに立ち寄りました。うどんを注文し、ひとくちすすると、ズルッ、ゴホッ、ゲホッ、ゴホッ、ゴホ、ゲホ、ゴホッ……。「うどんが気管に……」と、ひとり言い訳することもできず、咳き込み続けました。
 新型コロナウイルスの感染が広まりつつあった当時。賑わっていた店内は静まり、隣のおじさんは明らかに私から顔を背けています。もし私なら思わず席を立ち、苦しむ誰かから距離をとっていたかもしれません。
 一方で、私たちが新型コロナウイルスを知る以前であったなら、どうでしょうか。もし隣で咳き込み苦しそうにしている人がいたら、「大丈夫ですか」と心配し、その苦しみに少しでも寄り添うことができていたかもしれません。
柔らかな風
 大悲とは、共に悲しみ苦しむことで、すべての人を救いたいという阿弥陀さまの願いです。
 新型コロナウイルスに翻弄され続けたこの一年。私たちはその日常の中で様々なことを諦めてきました。その一方で、実は諦めてはならないものまで、諦めてしまってはいないだろうか、と思うのです。感染を恐れるあまり、隣の人の苦しみを思う気持ちさえ起ってこなくとも、コロナだからしようがない、と。
 阿弥陀さまの光明は、自ら禍を作りだす私の悲しい姿を照らし出します。そして、阿弥陀さまの大悲から流れる柔らかな風は、諦めてはならない大切なことを、その風に触れる私に気づかせてくれるのです。
  (機関紙「ともしび」令和2年12月号より)
仏教あれこれ
「ローストビーフサンドイッチ」の巻
 お参りの途中で、外食をしなければいけなかった日のことです。京都駅近くの地下街で、僧侶の恰好での一人の食事。人の目もありますから、どこでもいいという訳にはいきません。豚カツ、牛丼、寿司、この辺りは先ずダメでしょう。かといって、精進料理のお店があるわけでもなく、無難なところでと、喫茶店に入りました。
 メニューを開くと目に飛び込んできたのが、本日のおススメと書かれたローストビーフサンドイッチ。お値段も手頃です。歩き回って疲れ切っていたうえに、この後もご門徒さんのお宅にお参りに行きます。ここは肉でも食べて力をつけたいところですが、注文をする勇気も、公衆の面前で肉を食べる度胸もありません。仕方なく、野菜サンドイッチを選びました。「本当は肉を食べたかったのに…」と、行き場のない不満を抱えながら口に運んでいると、法衣姿のお坊さんが入って来られました。
 私から見える席に座ったその方は、事もなげに「ローストビーフサンド!」と注文したのです。「え!いいの?」と驚く私の気持ちを知ってか、知らでか、運ばれてきたそれに、美味しそうにかぶりつきます。
 あまりにも潔い行動に驚くと共に、他人の目ばかりを気にしていた自分が恥ずかしくなりました。なぜなら私は、信仰や信念から肉を食べなかったのではなく、ただ単に他人からの評価を、気にしていたにすぎなかったからです。
 他人の目に振り回されて…と思いますが、実は、他人を気にする自分の思いに縛られていたんですね、きっと。
  (機関紙「ともしび」令和2年12月号より)
おときレシピ Vol.49「精進ファラフェル」

 最近チャレンジしている新しい料理があります。ズバリ、中東料理です。きっかけは親しい友人がエジプトの方と結婚したことでした。食に制限のあるご主人でも、おいしく安心して食べられる料理をつくりたいということで、わたしも一緒に中東料理を勉強してみたのです。すると、スパイスを多用し香りでアクセントをつける味付けは、実は精進料理とも好相性だということに気づきました。
 今回ご紹介するのは、豆を使ったファラフェルというコロッケです。コロコロとしたかたちがかわいらしく、中を割ると鮮やかな緑色が印象的です。毎日の食卓にもおつまみにも、お弁当にも重宝しそうな一品です。
a
(ワンポイント)
 フードフロセッサーにかけるとき、1分ほど混ぜていると大きな団子状になり、揚げやすい硬さになります。
Lorem ipsum dolor sit amet, consectetur adipiscing elit. Ut elit tellus, luctus nec ullamcorper mattis, pulvinar dapibus leo.
Lorem ipsum dolor sit amet, consectetur adipiscing elit. Ut elit tellus, luctus nec ullamcorper mattis, pulvinar dapibus leo.

【監修】青江覚峰
 一九七七年、東京浅草生。浄土真宗東本願寺派緑泉寺住職。
 カリフォルニア州立大学にてMBA取得。料理僧として料理、食育に取り組む。著書に『お寺ごはん』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。NHKをはじめテレビ、新聞などメディア出演も多数。

 
			