2019年05月のともしび

常照我

 新緑の登山道をひとり歩いていく。小雨の中を自分の呼吸の音とともに歩いていくと、不意に、からみ合った樹の根が道をふさいだ。根は右に左に伸び、石をつかんでいる。
 気軽に踏みつけてはいけないのだ、と思った。なぜそう思ったのだろう。汗が冷えてくる。……それは樹の深いいのちの時間が根っことしてここに露出しているからだろう。
 はるか見上げれば光に透ける美しい青葉。この根から汲み上げられた水があそこまで届いている。……わたしも同じ、一枚の青葉なのだった。深いいのちの歴史が、わたしの所まで届いてきたのだ。わたしを支えているはたらきが、すでにここにある。森の中、量り知れないいのちの世界が、目覚めよという願いとなって喚びかけてきた。
  (機関紙「ともしび」令和元年5月号 「常照我」より)

撮影 フォトグラファー 田附 愛美氏

親鸞聖人のことば

大悲倦きこと無くして
常に我を照らしたまえり

『正信偈』より(「佛光寺聖典」二二九頁)

【意訳】
 阿弥陀さまの大悲のお心は、決し見捨てることなく、常に私を照らし続けてくださいます。

日本各地が自然災害にみまわれた昨年。九月に発生した台風二十一号により、私が住むお寺も被害を受けました。

遅きに失す
 台風が過ぎ去った週末。本堂でご法事が勤まりました。法要後、お斎の席で私の前に座ったおじいさんが「ところで、お寺は大丈夫でしたか?」と、たずねられました。私は、よくぞたずねてくださったとばかり、「いや、実は本堂の屋根が……、境内の樹が……、お参り用の車が……」と、猛アピールします。
 しかし、その直後「しまった……」と、気づきました。おじいさんのご自宅は、六月に発生した大阪北部地震の被害を受けておられたのです。地震被害の修繕を終えられたところに台風の襲来。本来なら私から「大丈夫でしたか?」と、たずねるべきでした。
 遅きに失するのを覚悟でたずねると、地震では塀が倒れ、台風では屋根材が飛び、雨漏りしているとのことでした。
照らされ続ける
 一つ一つの災害に驚き、心を痛める私たちですが、やはり以前のことは記憶の片隅に埋もれていってしまいます。現地には、未だ癒えない悲しみを抱える人が確実に存在しているのに。ましてや、自分に少しでも被害が及ぼうものなら、他人のことなどかまっていられない。
 大悲とは、全ての人の苦しみや悲しみに、どこまでも寄り添おうとされる阿弥陀さまのお心です。他人の苦しみや悲しみに寄り添い続けることができない私だからこそ、阿弥陀さまの温かなお心に照らされ、冷たい我が身に気づかされ続けながら歩める道があると、親鸞聖人は顕かにしてくださいます。
  (機関紙「ともしび」令和元年5月号より)

仏教あれこれ

「ゴーゴー、アップ」の巻
 東京に「外国人に人気のハンコ屋さん」があります。
 店主のおばあちゃんは、来店したお客さんに「どこの国から来たの」とたずね、その国の言葉で「こんにちは、ありがとう」と声をかけるというのです。レジの上の壁には、忘れないようにと、たくさんの国の名前とあいさつがカタカナで記されていました。
 若い頃、友人と出かけた海外では、乗り換えの空港でぶつかってきた女性から「オー、サライ」と言われ、依頼したツアー会社名が「サライ」だったことから、同行者と思い握手を求めたところ、そばにいた友人が「彼女は、ソーリーって言っているのだよ」と大爆笑。
 そんな私が、なぜか外国の方からよく声をかけられます。とくに京都、烏丸四条の地下鉄の駅。同じ場所に、市営地下鉄線の四条駅と阪急線の烏丸駅が立体に交差しているところです。
 先日もアジア系の女性がスマホを見せながら、上を走る阪急電車に乗りたい、と言うのです。私は指を差し「そこの階段を上がって行くんだ」ということを「ゴーゴー、アップ」と言います。それが、毎回伝わらないので、現地まで同行します。
 「次回こそは」という学習意欲のない私でしたが、「知らない国で、買い物するんだよ。あいさつくらいしてあげたいよ」と言うハンコ屋さんのおばあちゃんのひと言に感銘を受けたのです。
 そうだ、まずあいさつだ。これからは、外国の方がお寺に訪ねてくることもあるだろう。まずは、「こんにちは」と日本語からかな。
  (機関紙「ともしび」令和元年5月号より)

おときレシピ Vol.33「肉味噌もどき」

 浅草を訪れた外国人から「あなたはベジタリアンですか」と尋ねられ、Noと答えると漏れなく「なぜ」と聞き返されます。
 「ベジタリアン」というのは取捨選択をした結果です。肉を捨て野菜を選ぶ。一方、実際の生活には、お布施を含めて多くのいただきものがあります。中には肉やお魚をいただくことも。それを、肉だからと突き返すことはしません。
 和讃の一節に「じっぽうじんかいの 念仏の衆生をみそなはし せっしゅしてすてざれば 阿弥陀となづけたてまつる」とあります。どんなご縁も喜んで受け入れるのが阿弥陀さまの教えですから、取捨選択するのには違和感があるのです。
 そんなことを考えながらこうどうで肉味噌もどきをご紹介します。

高野豆腐…1枚
レンコン…100g
こんにゃく
八丁味噌…170g
赤味噌(信州味噌)…80g
砂糖…125g
酒…90cc
みりん…45cc
ごま油…大さじ2(フライパンや材料の料理によって増減あり)
レンコンを皮をよく洗いみじん切りにする。高野豆腐は水で戻してみじん切りにする。
フライパンにごま油をひき、中火にかけ、レンコン、こんにゃく、高野豆腐の順に入れしっかりといためる
2に味噌、酒、砂糖、みりんを加え、よく炒め混ぜる。

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(ワンポイント)
 御飯や豆腐にのせるとしくいただけます

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【監修】青江覚峰
 一九七七年、東京浅草生。浄土真宗東本願寺派緑泉寺住職。
 カリフォルニア州立大学にてMBA取得。料理僧として料理、食育に取り組む。著書に『お寺ごはん』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。NHKをはじめテレビ、新聞などメディア出演も多数。