2017年10月のともしび

常照我

 稲刈りが近づいた。たわわに実った稲穂が黄金色を放ち、新米のおむすびが待ち遠しい。
 おむすびという言葉には、自然の恵みが私を生すという意味があり、「むすぶ」ということの基本の意味は、生命が誕生することだと、日本文学者、中西進氏はいう。
 それゆえに、生す、産す、結ぶと書く。また、蒸すと書き表すのは、水分が生命誕生に欠かせないからだ。
 結婚すれば「赤い糸で結ばれていた」という。
 プレゼントを飾るリボンの結び目は、古く「鬼の目」といい、祝福する強い力が生まれた。
 今年も各地で、大雨、台風と大きな被害を受けた。それでも種々の実りに恵まれた。そのよろこびが、いのちのむすびとなっていることを報らされる。
  (機関紙「ともしび」平成29年10月号 「常照我」より)

「コスモス」 撮影 藤宮 賢樹氏

仏教あれこれ

「前向き駐車」の巻
 先日、車で妻の実家を訪ねました。ビールを頂戴した私に代わり、妻の運転で帰ることに。妻にとっては久しぶりの運転。多少の緊張感がただよう道中、コンビニに立ち寄ることになりました。
 車道からコンビニの駐車場に入ると、正面の壁には「前向き駐車でお願いします」の看板が。壁に隣接した民家に、排気ガスによる迷惑がかからないように、との配慮なのでしょう。すると、駐車場へと車を乗り入れた妻は、わざわざ苦手なバックで駐車しようとします。見かねた私が、「ここ前向き駐車やで」と声をかけると、「ちょっと今話しかけんといて」とのこと。
 何とか車を停めホッとする妻に、「ここ前向き駐車って書いてあるけど…」と言うと。「だから、前向きに停めたけど」との返事。どうやら妻は、駐車場の入り口に向かって「前向き」と勘違いしていたようです。
 考えてみれば、私たちが普段使っている前後左右は、自分を中心に据えることで、その捉え方は人それぞれです。向かい合う相手の右側は私にとっての左側であるように。
 しかし、ひとつ例外があります。私たちがお仏壇の前に座り、阿弥陀さまと真向かう時、その左右のお軸は、私から見て右側が左脇掛け、左側が右脇掛けと呼ばれます。お仏壇のおかざりは、すべて真ん中におられる阿弥陀さまを中心に、阿弥陀さまから見て右か左かでその呼び名が決まっているのです。
 いつも自分中心の生活を送っている私。そのことで人と意見がぶつかり、さらにはこじれることも。ただひとつ、私中心の見方が破られる場所。それが阿弥陀さまの前なのです。
  (機関紙「ともしび」平成29年10月号より)

和讃に聞く

平等心をうるときを
一子地となづけたり
一子地は仏性なり
安養にいたりてさとるべし

浄土和讃(『佛光寺聖典』五九七頁 九二首)

【意訳】
 すべての存在を「わが一人子」と思える境地が一子地です。私たちはお浄土に往生させていただく時、すべてを平等に救わんとする仏のお心である一子地をいただくのです。

 先日職場で、インターネット上で広まっていた、とある動画が話題となりました。
 その動画は「現場総監督」職の求人面接という設定。職務内容は「常に周囲に注意を払い、時には徹夜も。プライベートの時間はとれません」「二四時間、三六五日休みなし、無給」。そんなひどい仕事があるのか?と求職者たちが騒然としていると、「それは、お母さんです」と告げられる…。あるアメリカの会社が母の日のキャンペーンに制作した動画だそうです。

無数の母の願い
 無給・無休で尽くしてくれるお母さん。特に赤ちゃんの時は、三時間ごとの授乳におむつ替え、夜泣き…。私は、年の離れた妹が生まれた時に、まさに無休で奮闘する母の姿を目の当りにして、自分もここまでしてもらってきたのかと、感謝の念を新たにしたことを思い出しました。
 この動画を話題に上げた方は、「苦手なあいつも、彼の母に幸せを願われている。誰もが願われている。無数のお母さんが我が子の幸せを願っている、そんな世界なんだ」と。
無量の仏の願い
 けれどそこが人間の限界です。嫌なあの人も母に願われているかけがえのない存在だと言われても、私はやっぱり彼が苦手です。彼の母も、我が子は可愛くても、きっと苦手な人の一人や二人はいるでしょう。
 だけど阿弥陀さまは、私たちすべてを「わが一人子」として慈しんでくださいます。身内に対してしか「わが一人子」とは思えない私のことも、私が苦手なあの人のことも。一子地にいらっしゃる阿弥陀さまは、分け隔てなく、親のごとくに見守り導いてくださるのです。
  (機関紙「ともしび」平成29年10月号より)

おときレシピ Vol.17「くるまの角煮もどき」

 日本よりも、中国のお寺で多用される「もどき料理」。中国ではちゃりょうと言いますが、普茶とは、「普(あまね)く大衆と茶を供にする」事を意味し、身分の上下を取り払い、皆で和気あいあいと食事をすることを指します。
 普茶料理の特徴は、1つのテーブルを4人で囲み、大皿に盛られた料理を各自が取りながらいただくというスタイル。今では日本でもおなじみのこのスタイルは、江戸時代の初期にいんげんによって日本にもたらされたものです。
 さて、おもてなしの心を大切にする普茶料理の中でも、特徴的なのがこの「もどき料理」。本来の食材とは異なるもので、味や食感、見た目を似せて作ります。今回はくるまを豚の三枚肉に見立てて作る角煮もどきをご紹介します。油を多めに使い、しっかりと味をつけることで、まるで豚の角煮のように濃厚な味わいに仕上がります。

車麩…大2個
昆布出汁…適量
じゃがいも…小2個
人参…50g
サラダ油…大さじ1.5
練がらし…好みで
【 A 】
砂糖…大さじ3
醤油・みりん…各大さじ2
【 B 】
醤油…大さじ1
みりん…大さじ1
車麩は昆布に漬け、水気をしっかりと絞って4等分に切る。
じゃがいもは皮をき、一口大に切る。人参は皮付きのまま一口大に切る。
ともに水から煮て柔らかくなるまでで、Bを加えさらに5分煮て火を止める。
フライパンにサラダ油をひき、中火にかける。
車麩を入れ両面に焦げ目がつくまで焼く。
弱火にし、よく混ぜたAをスプーンで少しずつかけながら全体になじませ、2を加えて絡める。
器に盛り、練がらしを添える。

a

(ワンポイント)
 Aをかけるときは焦げつきやすいので短時間に丁寧に行ってください。

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【監修】青江覚峰
 一九七七年、東京浅草生。浄土真宗東本願寺派緑泉寺住職。
 カリフォルニア州立大学にてMBA取得。料理僧として料理、食育に取り組む。著書に『お寺ごはん』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。NHKをはじめテレビ、新聞などメディア出演も多数。