2025年5月のともしび

常照我

 子どもの学力低下についての報道を目にした。そこでは学力テストの結果の推移が盛んに論じられていた。
 学力とは一般的に学校の成績や、学習で得た知識・能力のことを言う。だが、ある発達心理学者は「学力とは『学ぶ力』のことだ」と提唱している。学ぶ力とは、自分が無知であることを自覚し、師となる方を見つけ、素直に教えてくださいと言える力のこと。
 学力を学ぶ力ととらえるならば、子どもより大人のほうが問題としなければならない。なぜならば、年をとるほど「知っているつもり」で日々を過ごしてしまうからだ。
 その姿は仏法を聞く場においてあきらかにされる。「私はわかっている」という愚かさを愚痴という。愚痴の姿が知らされるのが聞法の場なのである。
(機関紙「ともしび」令和7年5月号 「常照我」より)

イラスト 岡山県真光寺住職 守城尚子さん
(略歴)成安造形大学メディアデザイン領域CG・アニメーションコース卒業。株式会社ピーエーワークスに約三年勤務。退職後に岡山県真光寺住職を継職。現在は、放課後児童クラブ支援員、イラストレーターを兼業。

親鸞聖人のことば

無明長夜の灯炬なり
智眼くらしとかなしむな

『正像末和讃』より(『佛光寺聖典』六三二頁)

【意訳】
 阿弥陀如来の誓願は、煩悩に迷うわたしたちを導く大きな灯火なのです。智慧の眼が暗いと嘆くことはないのです。

 学生時代が終わる夏、伊豆の島で二泊三日の文学セミナーがあり、何とかバイト代をためて参加しました。

書くことの意味
 参加者は老若男女、三十人余り。フェリーで島に着くと午後から集まって自己紹介です。
 周りの人は創作への熱っぽいエネルギーに満ち、地に足がついた深いことばで語っているように感じられました。
 私はと言えば子どもの頃から読書好きで、以前書いた文章をほめられてから小説家にあこがれているだけ。みんなと比べて、自分ひとりが中身のない空っぽな存在に思えてきました。
 実は知り合いから「おまえには書かずにおれない切実なテーマがあるのか?」と問われたことがありました。そんな問題意識のなかった私は、自分の身の丈に合わないテーマで無理に小説を書いては、うまく行かずに自己嫌悪に陥っていたのです。

自由な世界
 翌日は班ごとに分かれ、持ち寄った自分の作品を、互いに読んだり批評したりします。
 私の作品はかなり前に書いた、小学生時代の自由研究の発表のときの話で、賞をもらえる発表にしたい先生と私の思いとのずれを描いた短編でした。他の人と比べて幼い作品にしか思えず、恥ずかしい時間が過ぎました。「ナイーブな思いが伝わってくる」とほめてくれた人がいて、からだが熱くなりましたが、思わず「私には書かずにいられない重いテーマが見つからないんです」とこたえていました。
 みんなが私を見つめました。「そのままでいいじゃないか」と年配の方の深い声が響きました。もうひとり若い人が続けて「書きたいことを書くんや。書くことは自由や」と大声を挙げたのです。みんな頷いています。その時自らを縛っていたものがほどけ、感動が私を包みました。
  (機関紙「ともしび」令和7年5月号より)

仏教あれこれ

「プライベートサウナ」の巻
 近頃増えつつあるプライベートサウナなるものを体験してきました。
 広めのワンルームほどのスペースにサウナ室、水風呂、シャワールーム、トイレと洗面所、外気浴ができるスペースまで完備されています。利用料金は普段通う銭湯の約五倍。たまの贅沢をと奮発しました。
 先ずはシャワーを浴びサウナ室へ。一人には十分な広さです。備え付けのテレビも銭湯のサウナとは違いチャンネル変え放題。しかもインターネットに接続されているので、好きな動画を楽しむこともできます。
 しかし、サウナ→水風呂→外気浴のルーティンを二回終えたところで違和感を覚えました。一人でゆっくりできるはずなのに、いつもよりペースが早いのです。
 普段通う銭湯のサウナ室は定員が二十名ほど。サウナ室に入ると必ず先客がいます。自由にならないテレビ画面を眺めながら暑さと息苦しさに耐える。そろそろ限界が近づく頃、周りを見ると私より先に入室した人がまだ頑張っている。それならば私も、と時間が長引きます。
 また、外気浴スペースのデッキチェアは二台のみ。タイミングよく確保したならば、なるべくゆっくりしてやろうという気持ちになるのです。
 名前も知らないけれど、共に暑さと苦しさに耐える同志の大切さと、せっかく手に入れたものを手放したくないという私の執着心を思い知った今回の経験でした。
 私には銭湯のサウナが性に合っているようです。
  (機関紙「ともしび」令和7年5月号より)

おときレシピ Vol.93「車麩くるまぶの角煮もどき」

 食の分野における最近の傾向のひとつに「フードテック」というものがあります。フードとテクノロジーを合わせた言葉で、そのひとつが大豆ミートのような代替だいがえ品です。味や食感、見た目をできるだけ本来の食品に近づけることを目指して作られたものが、日本でも広く流通しています。
 さて、車麩くるまぶを使った角煮かくに広義こうぎでは代替え品と呼べるものですが、豚の角煮に酷似こくじしているかというと……どうでしょうか。
 お寺の料理でおなじみの「もどき料理」は、必ずしもフードテックの枠組みに合致するとは限りません。むしろ、個人が家庭の台所で工夫する楽しさが魅力のひとつであるように思います。
 制約を「苦」ではなく「しばり」と捉え、楽しみに変える。そんな遊び心を味わってほしい一品です。

車麩…大2個
昆布出汁…適量
じゃがいも…小2個
人参…60g
さやえんどう…2枚
サラダ油…大さじ2
【 A 】
砂糖…大さじ3
醤油・みりん…各大さじ2
八角(粉)…小さじ1/2
シナモン(粉)…小さじ1
【 B 】
醤油…大さじ2
みりん…大さじ2
車麩は昆布出汁に漬け、水気をしっかりと絞って4等分に切る。
じゃがいもは皮をき、一口大に切る。人参は皮付きのまま一口大に切る。ともに水から煮て柔らかくなるまで茹で、Bを加えさらに5分煮て火を止める。
フライパンにサラダ油をひき、中火にかける。車麩を入れ両面にげ目がつくまで焼く。
弱火にし、よく混ぜたAをスプーンで少しずつかけながら全体になじませ、2を加えてからめる。
器に盛り、でたさやえんどうを乗せる。

(ワンポイント)
ソースを車麩にかける工程では焦げないように気をつけるか、一度火を消しても良い。

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【監修】青江覚峰
 一九七七年、東京浅草生。浄土真宗東本願寺派緑泉寺住職。
 カリフォルニア州立大学にてMBA取得。料理僧として料理、食育に取り組む。著書に『お寺ごはん』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。NHKをはじめテレビ、新聞などメディア出演も多数。